人喰いがいる。
人喰いは、力に満ち溢れた青年を食す。
人喰いは、エネルギッシュな青年のその輝かしい艶を
一瞬にして灰色におとしめるのが嗜好だ。
喰いかけの青年を見下ろして、
まるで他人事のように、
「お前たちにはもう明日はない」と言って笑う。
その「明日の無い青年」の「明日」を奪う
「張本人」であるのにも関わらず。
本来持ち得た筈の躍動をすい尽くされて、
萎れた花のようになった青年は、か細く喘ぐ。
代わりに、何の必要性もないニセモノの輝きを纏い
いつまでも生きながらえている人喰いが笑う。
人喰いは、子供には手間をかける。
早急に喰ってしまったりしない。
人喰いはあくまで青年を食い物にしているのだ。
人喰いはまるで子供には優しい。
未来に壮大な夢を抱けるよう、
作り話を聞かせては信じ込ませ、
子供の語る濁りない希望の話に笑顔で微笑む。
美辞麗句を並べてうっとりと偽善心に酔いしれ、
人喰いはあたかも己がさも立派であるという顔をする。
その実は腹黒く、甘美を想像し舌なめずりしては、
輝く瞳の光をやがて絶望によって奪う事に
非常な悦びを覚えている。
けれども誰も人喰いを殺さない。
退治しようとも言わない。
そもそも、人喰いを虐げるという事は、
この世界でとてつもない間違いであるから、らしいのだ。